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焼肉店
2025.9-2026.4 東京都中央区日本橋小伝馬町16-14リエール日本橋1F
空間プロデュース・デザイン内容:RCスケルトン/SOTOCHIKU素材/ペンキのキセキ/GRIDFRAME/GFメッシュ
【イムさんの「あったかい」】
前のお店の内装が解体されて、コンクリートのスケルトンになった現場に初めて入る。
「空気が変わりましたね。」とぼくが言う。
「変わりました。・・・あったかい。」とイムさんが応える。
・・・ぼくの中に「あったかい」が残る。
なぜなら、「つめたい」という人の方が圧倒的に多いだろうから。
イムさんの「あったかい」とは、何だろうか?
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古いビルにはさまざまな気配が宿っている。
イムさんは、気配に敏感な人だ。
たくさんの人が表層的に感じる印象とは明らかに違う。
「地下の駐車場みたいなお店がいい。」とも言われていた。
きっとイムさんの地下駐車場のイメージは「あったかい」なのだろう。
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「HORUMON EITA.(えいた)」は、イム・テジンさんと奥さんの真由美さんが営む小伝馬町の焼肉店。
韓国ではエンジニアだったイムさんは2008年に来日。
生活のためにアルバイトを転々としていた頃、焼肉店に魅力を感じ、飲食店を開くという目標を持つことになる。
2017年に焼肉もまだ素人同然で肉の仕入れ先も決まっていない中、小伝馬町に焼肉店をオープンした。
今回の店から数百メートル離れた小さなお店である。
イムさんは「お得意さんのテーブルについて肉を焼いてあげるふりをしながら、肉の焼き方を勉強していった」と笑って語るような人だ。
また、おいしい肉に出会うと全国どこへでも生産農家を訪ねては、仕入れ先を獲得していった。
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コロナでお客さんがめっきり減って「もう店を閉めようか」と考えていた頃、たまに一人で来られるご年配の女性から静かに封筒を渡された。中には、お金が入っていた。
ほとんど言葉を交わしたこともない方だった。心が激しく動いた。
そのことがなければ、それきり店はなくなっていたかもしれない。
「その人は恩人です。」
でも、それきりその人はお見えになられていない。
居場所も分からなくて、お礼も言えていない。
「その日から自分は変わったかもしれないです。」とイムさんは言う。
それから少しずつ「そこにしかないモノが食べられる穴場的なお店」として知られるようになり、今回大きな箱への移転を決めた。
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店を訪れるのは、小伝馬町で働く人も多いが、子供連れのお客さんも多い。
ぼくの知る限り、イムさんたちは子供が大好きで、子供たちはみなイムさんになついている。
イムさんは身体が大きくて、強そうで、やさしくて、いつもニコニコしている。
子供からの視線では、きっと腕にぶら下がりたくなるタイプだ。
「子供が生まれたらイムさんに抱っこしてもらいたい」と赤ちゃんを連れてくる母親もいる。
何かご利益(りやく)があるようなオーラを感じるのかもしれない。
大人の常連さんたちも、イムさんが客席に来てくれるのをみんな愉しみにしている。
誰もがイムさん自身のことを「あったかい」と感じているのが分かる。
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だが、「地下の駐車場みたいなお店がいい。」と言う、イムさんの「あったかい」の感覚は分かりやすいモノではない。
人間が何かに向かい合うとき、次の3つの視点が生じている。
①経済的視点
=交換可能性・効率・再現性・管理可能性の視点
②物語的視点
=意味づけ・共感・ブランド・歴史・理念の視点
③単独的視点
=「今ここにあるこの存在」と一対一で向き合う視点
(=交換不可能性・非効率・一回性・管理不可能性の視点)
イムさんの「あったかい」が①経済的視点に存在しないことは明らかだ。では、②物語的視点はどうだろう?
地下の駐車場には、特別な意味も、共感も、ブランドも、歴史も、理念も存在しない。むしろ、そこは意味から取り残されたような場所である。
つまり、イムさんの「あったかい」は③単独的視点からしかやってこない。
何の意味も与えられていない、殺風景と片付けられるような空間から何かが生まれるかもしれない気配を、イムさんは「あったかさ」と表現しているのではないか。
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ぼくらがつくろうとしているのは、「あったかい空間」ではない。
つくることによって、イムさんが感じている「あったかさ」が、どこから生まれているのかを探っていこう。
その気配は、意味を与えることで生まれるのではなく、まだ意味になっていない存在たちが出会うところから立ち上がるのではないか。
だからぼくらは、さまざまなトポロジカルな制作(=そこに宿る意味を剥ぎ取ることで、そこにいる人の心が無意識のうちに遊び始めることを目的とした制作)を試みることになる。

イムさんはこの空間を「あったかい」と言った

イムさんと真由美さん
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ぼくたちは、完成された正解をつくるデザイン会社ではありません。
あなたのなかに眠る混沌(カオス)や、まだ言葉にならない構想の断片を、そのままお聞かせください。
それらが空間として実現されることで、だれもがあの赤ん坊の瞳で何かを見つけようとする世界を一緒につくることができると信じています。
ぼくたちの目がキラリンと光ったら、グリッドフレームに火がついた証拠です。