昨日のような今日に陥らない空間
本当の店舗空間のよさは、2年や3年ではわからないものかもしれない。
グリッドフレームへ来られるクライアントには、すでにお店を何年も切り盛りされて、繁盛店として名を馳せているにもかかわらず、また一からお店をつくって心機一転で再スタートしよう、という方がたくさんいらっしゃる。
クライアントの周囲の方々は「こんなにうまくいっているのに、どうして?」と思われるようだ。人によってさまざまな理由はあるが、ひとことで言えば、「ルーティンに陥って、毎日が新鮮に感じられなくなってきたから」とまとめることができるだろう。
お店ができてから時間が経つにつれて、だんだんと失われていくのは、自分の創造力を刺激する発見ではないだろうか。毎日、同じ空間で過ごして、すべてに慣れ親しんでしまったとき、空間から新しい発見は得られなくなり、昨日のような今日を繰り返すようになってしまう。
クライアントは、人生を賭けて仕事に取り組むがゆえに、高いモチベーションを保つことの重要性を切実に感じておられるのだと思う。求められるのは、新しい発見がつきない空間だ。ぼくらは、そんなときにグリッドフレームを選んでいただけることを、この上なく光栄に感じる。
ぼくたちは、こうすれば必ずよい空間になるという方程式を持たない。だから、18年目になってもまるで初めての仕事のようにドキドキしながら、空間を構想している。
今までの実績は、これからのプロジェクトがすばらしいものになることを保証してはくれない。創造的な経験の積み重ねは、答えよりも、むしろ問いを増やしていくからだ。
問いは、それが本質的なものである場合のみ、プロジェクトの質を向上させる。その問いから、何らかのかたちが生まれていく。つくったぼくにも答えはないかもしれない。かたちにすることで、さらに新たな問いが生まれていく。
『創造性の連鎖』は、そのような問いを人から人へつなげていくためのシステムだ。だから、クライアントに引き渡される空間は、たくさんの問いに満ちているだろう。そのような問いは、そこで過ごす人によって発見される。問いはいつも答えを要求し、同時にそれを拒否する。だから、発見は何年経っても失われることがない。その空間から感じられるものは、自然の中へ分け入ったときに、そう感じるのと似ているのではないか。
以上、書いてきたこともひとつの仮定に過ぎない。
ただ、はっきり言えることは、何年経ってもクライアントが「昨日のような今日に陥らない」空間になる必要な条件は、ぼくたちが、「昨日のような今日に陥らないでつくる」空間であることだと思っている。
ぼくたちが大切にしているのは、まさにこのことだ。